Vol. 0 3

PTCセラミックスを発熱体に使用した
ケーブル状ヒーター製品
優れた柔軟性と安全性・省エネルギー性を実現

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「テクヒーター」
冊子版2023/01発行

COLLECTION 本号のテーマ:『テクヒーター』

『テクヒーター』はPTCセラミックスを発熱体とした自己出力制御・並列回路型のケーブル状ヒーターです。環境温度変化に応じて出力を自己制御するため異常加熱の心配がなく、安全性の高い製品です。

また、無駄な電力消費を抑えられることで、省エネルギー性に優れています。一般的な電熱線ヒーターとサーモスタットを組み合わせた場合と比較して、製品使用時のCO₂排出量を約30%削減することができます。

さらに、柔軟性に秀でており、複雑な形状に這わせる、配管に巻き付けるといった設置も可能です。パネル状やシート状に加工したバリエーションもラインアップしており、融雪や凍結防止、温度管理など、幅広いシーンでご使用いただいています。

【製品紹介】テクヒーター/製品紹介編:TECHEATER

『テクヒーター』製品サイト

『テクヒーター』はサステナブルスタープロダクトに認定されています。
積水化成品グループの独自認定基準で、特に環境への貢献度が高い製品を「サステナブル・スタープロダクト」(環境貢献製品)として社内認定しています。

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Keywords「自由自在」

従来、自己出力制御型のヒーティングケーブルは硬く、曲げ辛い物であることが常識でした。無理に曲げれば断線や破損の原因となり、製品寿命を著しく縮めることになります。一方、積水化成品の『テクヒーター』はご覧の通り、結んで・巻いて・這わせて。自由自在に曲げてご使用いただくことができます。

Behind The Scenes

開発裏話

テクヒーターの生い立ち

開発・営業担当 山口哲生

私が卒論生として大学の研究室で研究に明け暮れていた頃、日本経済はバブルの直前でした。一方、国内の科学技術分野ではいくつかのブームが起こりましたが、その一つがセラミックスブームでした。当時は超電導など電子セラミックスが社会現象となり、多くの企業や研究機関が参入し、様々な用途開発や実用化が盛んに行われていました。私が積水化成品への入社を決めた時代はそんな状況でした。積水化成品からセラミックスの研究のため、研究室に派遣されてきた先輩社員から「当社にもセラミックスの研究室ができるから一緒にやらないか!」と声をかけていただいたことが、私の積水化成品人生のはじまりです。入社翌年の1986年にセラミックス研究室が正式に発足し、その一員として様々な用途開発に取り組みました。しかし、張り切って挑んだものの、技術的に可能でも電子部品としての市場参入は採算面で難しく、大手に勝てず歯痒い思いを経験しました。

トライアンドエラーを繰り返す中で、特異な性質を持つPTCセラミックス(欄外コラム参照)に焦点を定めて研究開発を進める方針を決定。はじめて製品化を達成したのは「曇らない風呂場の鏡」を実現する防曇ヒーターでした。PTCセラミックスを樹脂でコーティングして防水性・安全性を担保し、鏡の裏に敷き詰め発熱させることで、曇りを除去する製品です。市場販売された防曇ヒーターは一定の成功を収めると共に、私にPTCセラミックスの可能性を確信させてくれました。

苦心しながらも防曇ヒーターの拡販を進める中、次の製品開発を思考しながら他社の電子部品工場を訪れたある日『テクヒーター』誕生へ発想が飛躍するきっかけが訪れました。その工場ではロボットによる組み立てのため、電子部品はバラバラの状態ではなく帯状のケースに等間隔に納められて運搬されます。その様子を見て「等間隔に配置したPTCセラミックスを樹脂コーティングして通電させれば、今までにない圧倒的な柔軟性を有したヒーターができるのでは!」と閃き、すぐに試作に取り掛かりました。当時は必死になって製品化まで進めたことを思い出します。こうしてPTCセラミックスを発熱体に使用したケーブル状ヒーター製品『テクヒーター』が完成しました。柔軟性の高いケーブル状のため、あらゆる配管に這わせたり、巻き付けたりすることが可能で、汎用性が高く、雪国での凍結防止ヒーターとして、住宅配管を中心にその性能を遺憾なく発揮してくれました。

新青森駅屋上のふちを融雪する『テクヒーター』パネルタイプ

そして、住宅やプラント配管、工事現場のコンクリート養生など様々な用途で『テクヒーター』が活用され始めた2003年頃、ついに大型依頼が舞い込みました。鉄道総合研究所(以下、鉄道総研)で開催されたある研究会で、研究会創設者でもある大学時代の恩師が突然肩を組んできて「山口君、鉄道総研で屋根に雪が積もらない、新しい機能を持つ新幹線駅舎を作りたいらしいから話を聞いて欲しい」と求められました。恩師はPTCセラミックスが高い「発熱効率・安全性・耐久性」を持つ材料であることと合わせて、当社の『テクヒーター』を知っていたことで話しかけてきたのです。私はこれまでの実績から要求される条件の全てをクリアできると確信して『テクヒーター』パネルタイプの開発に着手。他社製品と共に『テクヒーター』を比較試験へ持ち込みました。一緒に開発を進めていたメンバーからの継続的な協力も加わり、厳しいテストをクリア。『テクヒーター』が他社製品よりも優れていると総合的に評価され採用が決定しました。東北新幹線新青森延伸に関連する新駅、新青森駅・七戸十和田駅への実装を皮切りに、北海道新幹線駅舎や北陸新幹線駅舎でも次々と採用になりました。また、新幹線車両にもヒーターの搭載を検討しているとの相談を受け、専用の『テクヒーター』を設計。実装試験では他社製品が次々と断線などの故障を起こし脱落する中、『テクヒーター』は最後まで残りました。この結果により新幹線車両(E6系)への採用が決定しました。さらに『テクヒーター』は新たな公共事業展開として高速道路の雪害・凍害対策に展開を行い、北海道・東北・北陸の高速道路料金所や、トンネル、非常電話など多くの施設に導入されています。

豪雪地帯を走る新幹線(E6系)の車輪内臓部にも『テクヒーター』が搭載されている

こうした採用経験の中で、お客様からの貴重なご意見をもとに改良を重ねることで、『テクヒーター』はさらなる機能発揮を求め進化し続けています。そして『テクヒーター』はPTCセラミックスの省電力特性から、省エネルギー性や環境貢献性が大いに注目される今の時代にマッチする製品でもあります。広がり続ける『テクヒーター』の活躍フィールドと、その可能性にぜひご注目ください。

開発当時を振り返る山口哲生さん
  • Keywords「PTCセラミックス」

    古今ヒーター系製品の利便性は異常発熱による火災事故と切り離せない表裏の関係でした。しかし積水化成品の『テクヒーター』は、発熱体にPTCと呼ばれる特異な性質を有したセラミックスを使用することで、異常発熱問題をクリアしました。PTCセラミックスは、電気を流すと発熱しますが、一定温度に達すると急激に電気が流れにくくなり、発熱を低減します。この特性から一定温度を保つ発熱体として、安全に使用することができます。つまり、サーモスタットのような外付けの温度制御スイッチがなくとも、発熱体自体が見張り番となって、異常発熱による火災事故を未然に防いでくれるのです。さらに、外部部品点数が減ることで故障機会の減少、消費電力の削減による環境負荷の低減など、様々なメリットをもたらしてくれます。

  • Keywords「温かい屋根」

    雪国の駅舎にとって大きな問題となる屋根の積雪や雪庇。線路や人の上に雪が落ちれば大事故や電車遅延に繋がる可能性があるため、確実な融雪が求められます。『テクヒーター』パネルタイプの融雪効果により屋根に積雪や雪庇がない、安全で美しい駅舎をご覧ください。

繊細な素子

製造担当 勝田直樹

『テクヒーター』の発熱体に使われているPTCセラミックスは製造が難しい繊細な素子です。原料粉をチップ状に圧縮成形し、焼成させる(焼き締める)段階でPTCセラミックスとしての性能が決まります。焼成工程の加熱時間や温度、その日の気圧や天気までも性能決定に影響を及ぼすため、微調整が欠かせません。その後一枚ずつ通電させ、厳しい性能チェックをクリアしたものだけが『テクヒーター』専用のPTCセラミックスとして出荷されます。担当者は「毎回、かわいい我が子を嫁に出す思いです。」と真剣に業務に向き合ってくれています。これからも安全・安心を追求し、製造に努めてまいります。

圧縮成形したチップを検品(左上)/焼成されたチップ(右上)/
一枚ずつ性能をチェック(左下)/『テクヒーター』に組み込まれる(右下)
PTCセラミックスを検査する勝田直樹さん

テクヒーターパネルタイプの最適化

設計担当 石坂勇樹

屋根の融雪目的で『テクヒーター』パネルタイプをご採用いただく際に、取り付け場所に最適化したパネルを設計し、ご提案しています。ひと口に屋根の融雪といっても設置する地域によって、予想される気温や降雪量・積雪量などが大きく異なります。安全・確実に融雪が行える『テクヒーター』の必要量算出や効率的な設置方法の立案も同時に行います。また現場によっては図面には現れない、想定外の障害物が見つかるなど、一筋縄では行かないことがよく起こります。それら障害を事前に発見し、トラブルを未然に回避できるよう、できる限り現場へ伺います。『テクヒーター』は数多の採用実績を有する柔軟性・安全性・省エネルギー性に秀でた製品ですが、さらに良くなる余地があると信じています。私たちの世代でPTCセラミックスを活用した、より環境貢献性の高いヒーター製品を開発していきたいと考えています。

パネルタイプを設計する石坂勇樹さん
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